東日本大震災発生後3ヶ月を経て、仮設住宅は必要戸数の5割以上(約3万戸弱)が完成しているが、依然として岩手、宮城、福島の3県には約1,300カ所以上の避難所があり、約6万7,000人が暮らしている。津波によって引き起こされた原子力発電所事故もいまだ先が見えない状況であり、災害はいまだ収束してはいない。
震災発生直後から、建築関係者は被災地支援活動を開始し、それは現在も継続中である。ここでは建築家による支援活動を中心に、概要を紹介する。
建築家の坂茂さんは「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク」(Voluntary Architects' Network)として、東日本大震災の被災者のために設置された避難所に間仕切りシステム(PPS4)を無料で供給する活動を行っている。コストを抑え、簡単に設置できる紙管を利用した間仕切りによって、避難所でのプライバシーを確保し、被災者の精神的な苦痛の軽減に役立てるためである。3月24日から6月初旬までに、東北地方の避難所を中心に1,000セットを超える間仕切りシステムを設置完了し、その後も活動を継続している。 坂氏は 1995年の阪神淡路大震災の被災者のための仮設の紙のログハウス以来、さまざまな災害支援活動を行ってきた。最初の避難所用間仕切りシステム(PPS1)は、2004年の新潟中越地震により避難所のためにつくられ、今回のものは4世代目。構造部材はすべて紙管で、合板のジョイントやロープでの筋交いが一切不要。さらに短期間に簡単に組み立てられるものとなっている。
建築家で早稲田大学教授の古谷誠章さんが、古谷さんの師、穂積信夫さんと共に複数の公共施設を設計した岩手県田野畑村で、OBを含む研究室による支援活動を行った。
4月13日から15日間、段ボール板を用いたパーティションを現場で制作。実際には更衣室として利用された。仕切りの機能を兼ねた白段ボール箱の棚は重宝されホール内の随所で使用された。
5月2〜4日、避難所生活のニーズに変化に対応した家具を制作。家具デザインの藤江和子さん、テキスタイルデザインの安東陽子さんが同行。
4月27日、田野畑村の支援活動ブログをオープン。
テキスタイルデザイナーの安東陽子さん、照明デザイナーの岡安泉さん他による間仕切りプロジェクト。体育館で簡単につくれるパーティション。体育館のキャットウォークの手すりを利用してワイヤを張り、柔らかく透けるオーガンジー等の布を掛ける。布の透過性を変えることで透け方、見え方を変えることができる。4月10日、石巻市の石巻高校武道館で間仕切りを設置。安東さんは田野畑村の支援活動にも同行。
静岡県菊川市の建築家の山下晋一さんと設計衆団LearnNetwork(LN)、建築士会の有志がダンボールパーティションを制作し、3月31日掛川市を通じて被災地に寄付。ダンボールには子供たちのメッセージが貼り付けられた。パネルの枚数は、600枚、ブースにして100〜300セット。
段ボールケースの製造・販売、広島県廿日市市の石原工芸株式会社(石原弘善社長)が、避難所でのプライバシー確保等に使用出来る簡易間仕切りを広島県・自衛隊を通じて1000区画分提供。1区画の大きさは約2000角×高さ980。
GK設計(南和正社長)の設計、第一建設株式会社(富山県黒部市)の開発による緊急災害用仮設ユニット「QS72(クイックスペース72h)」を、3月23日、YKK AP株式会社(堀秀充社長)が石巻赤十字病院に寄贈した。
QS72の素材は軽量・剛性・リサイクル性に優れたポリプロピレン製のプラスチックボード。単位ユニット(3,160mm×1,031mm×2,155mm)を柔軟に連結する増殖システムにより、個室等の小空間から集会所やトイレ等の大空間まで様々に対応可能。単位ユニットごとに人手で持ち運び、ツールレスで組み立てることができる。診療用の仮設スペースとして使用された。
建築家で東海大学教授の杉本洋文さんをアドバイザーに、東海大学の学生による支援チームが提案する応急住宅は、行政がプレハブ式仮設住宅を設置するまでの期間、被災者の簡易的居住スペースや、現地ボランティアの活動拠点として利用することを目的とした簡易的住居スペース。ウッドブロックを繰り返し積んで建物を形成していくことで、学生や現地ボランティアでも建設可能な木造建築物としている。
電源の供給は、屋根にソーラーパネルを設置し、内部にはLED照明を設置すると共に、テレビ・パソコン等の情報機器用の電源供給や、携帯電話の充電設備の提供などを予定。
4月の28日〜5月の8日の期間に岩手県大船渡市越喜来泊地区にて「泊地区公民館」を建設、6月18日〜24日に石巻市北上町十三浜字﨑山にて2棟目として「相川・小指地区公民館」の建設をった。
建築家の森みわさんが代表理事を務めるパッシブハウス・ジャパンが、簡易間仕切りシステム「ニコニコフレーム」(2500mmx2500mmx5000mm=ニコニコ)を、4月30日、岩手県山田町の避難所に3体寄付。
避難所の炊事場として活用されている。105mm角の宮崎県産のスギ材のフレームと、間伐材を利用した台形集成材の壁、床パネルが用意されている。
香川県丸亀市の建築家の齊藤正さんと、さまざまな業種の有志メンバーによる、ボランティア・プロジェクト「ZENKON湯」は、東日本大震災の被災地へ、香川からお風呂を届けている。在来工法。
4月5日、宮城県南三陸町に最初のZENKON湯を設置して以来、6月13日までに12湯を設置。
同時に設計図面をオープンソースとして提供している。
宮城県南三陸町の漁業再興を支援する仮設番屋を、宮城大学准教授の竹内泰さんによる設計・指導、宮城大学の竹内研究室を中心として、宮城大学、滋賀県立大学、東京理科大学、横浜国立大学、東北大学、千葉大学などの学生、志津川の大工、漁師のみなさん、その他多くの方々の協力によって建設した。
番屋建設のための木材は、岐阜県加子母村の中島工務店が提供。外装と屋根に使用した合板は、被災したセイホク石巻工場から被災合板を買い受けた。
建物は平屋で約30平方メートル。5月7日に完成し、お祝いの餅まきをした。地元漁協が、漁師の会合やカキ養殖の準備作業に活用される。
建築家の村井正さんの主宰するソーラーデザイン研究所による企画住宅「エアロハウス」を仮設住宅として活用するプロジェクト。移設して本設建築として使用可能。
集成材フレームと構造用合板による移送可能な構造体は、フレキシブルな6mスパンの無柱空間。
「ZENKON湯」プロジェクトの建築家、齊藤正さんによる被災者住宅プロジェクト。
仮設から本設へ転用可能な105mm角断面の木材を使った在来工法による。計画案をオープンソースで提供。
建築家の坂茂さんが、被災地支援の第2フェーズとして、2〜3階建てコンテナ仮設住宅プロジェクトを提案している。
既存のコンテナ(20フィート)を市松模様に積み上げて構成するもの。
建築家の吉村靖孝さんが主宰する「エクスコンテナ・プロジェクト」。
コンテナの規格を流用した建築物「エクスコンテナ」によって、一刻も早い日常の回復に向けた生活拠点の提供を目指す。海運コンテナそのものは、日本国内で常設の建築物に用いることができないため、フレームを再設計し、法規に適合させながら扉など不必要な部分を省き、より安価な構造物としている。
建築家の塚田眞樹子さんによる自立を支援する住まいと施設の提案。
内部の仕上げを兼ねた構造体を分割して運び、現地で2面は開口、 4面は構造体のリング形状の立方体の箱に組み立てる。それを断熱材を裏打ちした外装材で包む。ひとつをWOOD RINGと呼び、いくつか組み合わせて立体的に拡張して使用。WOOD RINGは組み替え・追加・移設が可能なため、恒久的な建築として使い続けることができる。
建築家の山下保博さんほかによる、「モバイル・すまいる」プロジェクト。
最初の数ヶ月は仮設で。東京近郊の工場で人と物を集め、住宅ユニットを短期間で安く量産。仮敷地に 「仮設住宅=トレーラーハウス」が移動し、通常3時間という短時間で設置。
1〜数年後に本設。住み慣れたまちのインフラが整う、あるいは安住できる新天地が見つかると共に移動。本敷地に基礎を設置し、恒久 的な「建築物」に。「移動可能な住宅」=「モバイル・すまいる」。
1棟目が7月末に竣工予定。
岩手県気仙郡住田町では町内で加工した地元産のスギ、カラマツ材をつかった戸建て仮設住宅を建設した。町内に3団地を設け、93戸を建設した。設計施工は第三セクターの住田住宅産業株式会社。柱は105mm角、外壁は断熱材を挟んだ落とし込みパネル。
デザイン事務所、NOSIGNERによって運営される、wikiプロジェクト「OLIVE」。
被災者に役立つデザイン・アイデア・ノウハウを被災者の方とできる限り早く共有するためのプロジェクト。
日本建築学会まちづくり支援建築会議が募集した被災地のまちづくりについて提案をWebで公開。提案の募集は継続している。
JIAが行う災害支援活動のための情報交換サイト。
3月12日、「JIA災害対策情報掲示板」がFacebookに参加。管理者はJIA災害対策担当理事の森岡茂夫さんと本部広報委員会委員長の中村高淑さん。情報の書込みは、原則としてJIA会員だが、会員建築家によるさまざまな活動が記録されている。
Archi+Aid。建築家による復興支援ネットワーク。
地域の復興、建築文化、教育の再生など、様々な活動に取り組む。7月には建築家と学生が、宮城県の被災地で地域の人々と復興について意見をかわすワークショップを行う予定。世界的に活躍する建築家が多数賛同するプラットフォーム。
災害復興まちづくり支援プロジェクト。
宮城大学事業構想学部の多様な専門領域を有する教員力を最大限に活用し、今後、本格的に進められる東日本大震災の震災復興計画に総合的、実践的に貢献していくことを目的。
震災当日の3月11日、日本建築学会災害委員会が、いち早く情報交換のためのメーリングリストを開設し公開。同委員会によるWebページ「日本建築学会災害委員会インターネットWGによる災害情報ページ」では、過去の災害を含むさまざまな情報が集約されている。
4月8日には、復旧や復興に関する「復旧・復興情報交換サイト」を新規のアーカイブとして立ち上げた。
独立行政法人建築研究所「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震関係特設ページ」。平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)調査研究(速報)調査研究の成果を、原則として4月20日時点で速報として取りまとめたもの。
「東北地方太平洋沖地震関連情報 」。日本建築学会東北支部による調査速報。3月20日号から5月25日まで21号を掲載。